教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
「次は何の香りを送ろうか?」
「え?」

 唇を離したイザークが至近距離でエレノアに問う。

「秋の果実は何だい?」
「ザーク様ってば、気が早すぎ!」
「そうか?」

 甘く微笑むイザークに、エレノアは心が満たされていく。次のハンドクリームの約束を当たり前のように話すイザークに、この先も一緒にいて良いのだと言われているような気がした。

(そうしてこれからもずっと約束を繰り返していけるのかな?)

「次の果実はぶどうですよ!」
「そうか。それならまたエレノアの指から食べさせてもらえそうだ」
「もう……」

 エレノアの言葉にはにかんだイザークに、エレノアも頬を緩ませる。そして二人は再び唇を重ねた。


「ああ、やーっと、ですよ」
「まあ、良かったじゃないか」

 そんな二人を庭の影から見守るジョージとエマは、ようやく訪れたこの庭の遅い春に喜ぶのだった。


「ミモザには『真実の愛』という花言葉がある。カーメレン公爵家の家紋に誓って、生涯君だけを愛すると誓うよ」

 長いキスの後、イザークはエレノアの薬指の指輪に口付けを落として言った。

「私には『秘密の恋』だったような気がします」

 満たされた心にふわふわとしながら、エレノアはイザークにミモザの香りのハンドクリームをプレゼントした時を思い返す。

「エレノア……もしかして、このハンドクリームには……」

 そんなエレノアの想いにいち早く気付いたイザークが、期待した眼差しでエレノアを見つめる。

(う……改めて言うと恥ずかしい……)

 キラキラとしたイザークの瞳に恥ずかしくなり、エレノアはこくりと頷くだけにした。

「エレノア!!」
「きゃあ!」

 頷いたエレノアに満面の笑顔を向けたイザークは、エレノアを軽々と宙に抱き上げた。

「俺は、幸せだ!」
「……はい。私も幸せです」

 いつもエレノアを見下ろす空色の瞳が、今はエレノアを見上げている。

 傾き始めた陽の光がキラキラとその空色を照らし、エレノアは吸い込まれるように、その瞳に唇を落とした。
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