教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
 前の冬は聖水作りで閉じ込められていた。今までに無いくらいの寒さを記録したほどの冬は、風邪が流行し、多くの国民の命を奪っていった。

 エレノアの大切な人が亡くなった、と聞かされたのは、そんな冬の終わりだった。

 その冬は特に忙しく、寝る暇も無いほどに聖水作りに励んでいた。エレノアはそれが国民や大切な人のためになると信じていた。乾燥でボロボロになった手は、未だにあかぎれが残り、汚いまま。

「エレノア様?」

 考え込むエレノアをエマがドレッサーの前まで手を引いて、椅子に座らせた。

 そのドレッサーにはよく見える位置に、ハンドクリームが置いてあった。

「いちごの香り……?」

 エレノアは吸い込まれるようにそのハンドクリームを手に取った。

 蓋を開けて鼻を近づければ、甘酸っぱい香りが抜けていく。

(ふふ、私の作るいちご飴みたい)

 エレノアは思わず顔を綻ばせた。

「それだけはイザーク様が選ばれたのですよ」
「え?!」
「ドレスやアクセサリーは私に一任なされました。ハンドクリームは、イザーク様が街で買って来られたのですよ」

 ふふふ、と嬉しそうに教えてくれたエマに、エレノアはつい、ハンドクリームを買うイザークを想像して、笑った。

(果実飴の時も思ったけど、凄く似つかわしくないわね!)

「エレノア様を思って選ばれたのだと思いますよ」

 笑いを浮かべるエレノアに、エマは鏡越しに顔を見て言った。

「ザーク様との出会いはいちご飴で……」
「はい!」

 エレノアが思い当たったことを何気なく口にすれば、エマは嬉しそうに返事をした。

 その意味にエレノアは顔を赤く染める。

(私との出会いの想い出を大切にして?! いや、それは私の考えすぎよ。単に、いちご飴の印象があっただけで……)

 一人であわあわするエレノアの姿に、エマは聞こえない小さな声で呟いた。

「はあ、イザーク様ももっと押さないと、先が長いわね」
「何て言ったの?」
「いいえ、そのハンドクリーム付けてみては? と」
「そうね!」

 エマの呟きが聞こえなかったエレノアは、嬉しそうにハンドクリームを手に落とす。

 指先でクリームを伸ばしていけば、いちごの甘酸っぱい香りが立ち上る。

 指先についたいちごの香りに、エレノアは再び飴屋での出来事が思い出されて、顔を赤くした。

「あら」

 そんなエレノアに、エマは何故か嬉しそうに微笑むのだった。

(私、いつの間にかザーク様を意識してない? 仮の妻なのに、調子に乗り過ぎよ!)

 ドキドキする胸を押さえるように、エレノアは自分の気持ちを抑え込む。それなのに、思い浮かぶのは、イザークの優しい眼差しで困ってしまった。

(はあ、私、ザーク様のあの距離感で離婚までやっていけるのかしら)

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