教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
 エレノアは自分で言って、傷付くのがわかった。

(ザーク様に好きな人……いつかは……)

「はああああ、あのヘタレが」

 エレノアが俯いていると、エマが盛大に溜息を吐いた。驚いてエマを見れば、彼女は怒っているように思えた。エレノアは慌てて話題を変える。

「そういえば、本邸のお庭のミモザは黄色だけなのに、離れには三色あるのね!」
「ああ、黄色のミモザはカーメレン公爵家の家紋にも使われているんですよ」
「ああ、だからメインの所は黄色だけなのね!」

 エレノアの話にエマが乗って来てくれたので、ホッとして話を進める。

「エレノア様、ミモザの花言葉はご存知ですか?」
「ええと、確か、『優雅』だったかしら? 公爵家にぴったりね」

 エマの言葉に、エレノアは宙を見ながら思い出す。花言葉はあまり詳しくはないが、それは有名なので知っていた。

「はい。それはミモザに共通したものですわね。ミモザは色によってもそれぞれ花言葉があるんですよ?」
「そうなの?」

 得意げなエマに、エレノアは興味津々で乗り出した。そんなエレノアに、エマも嬉しそうに教えてくれる。 

「黄色には『秘密の恋』、オレンジには『上品』」
「秘密の恋……」

 何故かドキン、と胸が跳ね上がったが、エマの話に集中する。

「白は『頼られる人』、『死に勝る愛情』ですわ」
「……それは、何とも重たいね」

 最後の白のミモザの花言葉に、エレノアは半目になりながら言った。

「そうですわね。でも、そんな愛、素敵じゃありません?」
「確かにそんな愛があったら素敵だね。でも私は、生きてさえいてくれたら良いかなあ」

 どこか遠い所を見つめて答えるエレノアに、エマはハッとした。

「すみません……、エレノア様!」
「ううん、違うの。気にしないで」

 昨日の今日だ。またエマに気を使わせてしまい、しまった、とエレノアは反省する。

「あ、飴、出来たんじゃない?」

 エレノアは乾燥させていた飴に慌てて振り返った。

「あれ?」
「どうしました?」

 飴を見て固まったエレノアに、エマが心配そうに駆け寄る。

「ええと、これ、オーガスト様に報告する案件かな?」

 完成したもも飴を持ち、指さしながらエレノアは首を傾けた。

「エレノア様、まさか……?」
「う、うん。微量だけど、この飴からキラキラした銀の光が見えるよ」
「ええ?!」

 オーガストが言っていたことは本当だった。枯渇したはずのエレノアの聖女の力は残っていた。無意識に飴に付与するほどに。

 試作段階だったので、飴は5本だけ。

「……全部、提出ですね」
「ですよね……」

 エマの言葉にエレノアはがっくりと項垂れる。

(でも、何で? 私の力は失われたはず……)

< 48 / 126 >

この作品をシェア

pagetop