教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
「うーん、でも、騎士団と教会は関係しているのに行っても良いのかなあ?」
「魔物討伐で怪我人が出なければ、教会から人が派遣されることはありませんわ。今日も騎士団は鍛錬、イザーク様は執務室にてお仕事されているはずです」

 イザークの予定をいつの間にか調べ上げているエマは流石だ、とエレノアは驚きながらも、少しだけ不安があった。

(私を知っている人がいたらと思ったけど……こんな下位の聖女なんて覚えていないよね)

 人手が足りない時はエレノアも騎士団に派遣されていた。しかし、そういうときは大抵大勢の負傷者がいて、エレノアもいちいち騎士の顔など覚えていない。逆もしかりだろう、と思い至ったエレノアは、不安を考えないことにした。それよりもイザークに久しぶりに会えるかもしれないと思うと、胸が弾んだ。

「エマ、もしかして最初から計画してた?」

 エレノアがいつも着る装いはエマが用意してくれる。飴屋の仕事の時は動きやすいワンピースで、エプロンは店に用意されている。

 今朝起きたとき、用意された綺麗なスカイブルーのワンピースに、エレノアがイザークを思い起こしたのは言うまでもなかった。

(もしかしたらエマは、今日最初から騎士団に行くつもりで?)

 エマの方を見やれば、彼女は口に人差し指を当てて、不敵に微笑んだ。

「さあ? どうでしょう」

 不敵に笑うその綺麗な顔に、妖しさもあり、エレノアはつい息を飲んでしまい、それ以上は何も言えなかった。

(エマって有能で不思議な女性だよね)

 それでもエレノアのためにこうしてイザークに会えるように騎士団まで連れて行ってくれるのだから、彼女が優しい人なのは間違いない。

「ねえ、ザーク様には前もって言ってあるんだよね?」

 有能なエマのことだから当然そうしてあるのだろうとエレノアは思い、彼女に問えば、エマはいたずらっぽく笑って言った。

「あら? サプライズだから嬉しいんじゃありませんか!」
「ええええええ?!」

 まさかの返答に、エレノアは驚きで声をあげた。

「大丈夫です。騎士団の執務室にいるのは確かですから」

 自信満々にウインクしてみせるエマに、エレノアは急に不安になってくる。

「お仕事中に良いのかなあ……」
「イザーク様はエレノア様を優先させるに決まっています」
「ええ……」 

 何故か自信たっぷりのエマに、エレノアは半信半疑ながらも、もう騎士団がある建物まで来てしまった。もう突撃するしかない。
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