教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
 イザークの執務室に案内されながら、エレノアはサミュから話の続きを聞いた。

「ニ年前の魔物討伐の時、僕ら下っ端の騎士たちは、最前線で苦戦を強いられました。全員何とか王都まで帰還できたのは、当時第一隊の隊長だったカーメレン団長のお陰なんです」

 第一隊を引き連れ、魔物を一掃したイザークは、その後、その功績により団長になった。そして、王族の介入も手伝い、騎士団の改革が瞬く間になされたのだと。

「団長がいなければあそこで僕たちは死んでいました。そして、この騎士団も、今も貴族主義の腐ったままでした!」


目を輝かせてイザークのことを語るサミュに、彼は慕われているんだな、とエレノアは嬉しくなった。

(エマに話を聞いていた通り、ザーク様は凄くて素敵な人だ。それに、真面目なザーク様らしい……)

 ふふ、と笑うエレノアに、サミュは顔を近付けてはにかむ。

「エレノア様、僕が生きているのは貴方のお陰でもあるんですよ!」
「私……?」

 急に顔を近付けられ、驚くエレノアに、エマが間に割って入る。サミュは両手を合わせ、謝る仕草を見せると、話を続けた。

「あの時、上位の聖女様は上官たちの所にしかいませんでした。僕たちはこのまま死ぬのかな、とぼんやり思っていた所に、エレノア様が来られたんです」

 エレノアはニ年前の惨状を思い返し、胸が傷んだ。

 上位の聖女たちは皆、立派な建物の中に行き、病室にも入れない、広場に広げられた敷物にただ横たわる大勢の騎士たちは放置されていた。一番重症なはずなのに。

 しかし、上官の状態をわかるはずも無いエレノアは、上位の聖女たちがかかりきりなほどなのかと、その時は思った。今考えれば、自分が受けてきた仕打ち同様、下位の兵士たちは搾取され、蔑ろにされていたのだとわかる。

 治癒の力よりも摂取するものに付与したほうが力があるとわかっていたエレノアは、その場で聖水を作り、横たわる騎士たちの口にねじ込んでいったのを覚えている。下位の聖女は数えるほどで、少ない。皆、僅かな治癒の力を使い切り、とても全員助けるのは無理だった所を、エレノアの聖水で乗り切ったのだ。力を使い切った者たちと手分けしてひたすらに水を飲ませて行った。その中にサミュもいたということだ。

「でも、あの時、何人かの聖女がいたはずですが……」
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