教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
 サミュが自分のおかげで生きている、と言った言葉を思い出し、どうしてエレノアのお陰だと言い切れるのか首を傾けた。

「ふふ、それは、貴方が涙を流しながらも必死に水を生み出している所を真下で見ていたからですよ」
「真下……?」
「はい! 死にかけていた僕の口に作った水を突っ込んでくれました」

 何とも明るく話すサミュに、エレノアは顔を覆った。

「緊急とはいえ、あのときはすみませんでした……」

 騎士たちを死なせまいとエレノアは必死だった。必死すぎて、手分けして水を配るに至るまでは、エレノアが直接突っ込んでいたのを思い出す。

(は、恥ずかしい……死にかけの人に私、なんてことを!)

「謝らないでください。貴方のお陰で生きている、と言ったでしょう?」

 顔を覆うエレノアに、サミュはにっこりと笑った。

「そうか、団長はあのときの聖女を探されていると聞いたが、エレノア様のことだったのか」
「ぶふっ」

 サミュの言葉に、イザークが聖女を探していたことを聞き、エレノアはどういうことか訪ねようとしたが、エマが先に吹き出してしまった。

「エマ?」
「何でもありません」

 吹き出したはずなのに、クールに佇まうエマに、エレノアは首を傾ける。

(ニ年前って、そんなときからオーガスト様の任務が動いていたのかしら?)

「僕も、お礼が言いたくて、聖女様にもう一度会いたかった。しかし、あなたが騎士団に来ることは二度と無かった」

 サミュは目を細めて、エレノアの手を取った。

(あの後、私は教会の地下に閉じ込められたものね)

 騎士団で聖水を大々的に振る舞ってしまったエレノアは、その後神官長にこっぴどく叱られた。そして地下に閉じ込められ、ひたすら聖水作りだけをすることになった。あのときは自分が悪いのだと思い込んでいた。思えば洗脳に近いかもしれない。今思えば、人の命を助けたのに叱られるとは、理不尽だ。

「エレノア様、本当にありがとうございました。あなたは私の女神です」

 あのときのことを思い出し、苦い顔をしていたエレノアは、サミュに手を取られたままだった。

 彼に意識がいくのと同時に、彼から手の甲に唇が落とされたのが目に入った。

「「!!」」

 エレノアとエマは突然の出来事に思わず固まった。

 しかし、サミュは満足そうにエレノアの甲から唇を離すと、にぱっと笑い、「さあ、行きましょうか」とエレノアの手を取ったまま歩き出した。

(ザ、ザーク様にもキスされたことないのに!! あ、いや、指を舐められたことがあるか……って、何考えてるの、私!!)

 突然の出来事に頭が混乱するエレノアは、心の中で一人突っ込みをしては顔を赤くさせるのだった。
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