教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!
 パリッ、とした音が静かな執務室に響いたかと思うと、桃の果実がじわりとイザークの口に広がるのがわかった。

 イザークから滴り落ちた果汁がエレノアの手の甲にぽたりと垂れたからだ。

 イザークは舌なめずりすると、エレノアに視線を移した。

(うっ、顔が良いから何だか色っぽい!)

 その仕草に心臓がうるさく早鐘を打っている。エレノアがイザークに見惚れていると、彼はエレノアの手を取り、果汁が落ちた甲をペロリと舐めた。

(!!!! またこの人は!!)

 突然のことに、エレノアの心臓がパンクしそうだ。

「エレノアの甘さを味わって良いのは俺だけだよ?」
「だから、甘いのは、手に果汁が付いているからですね!!」

 エレノアの手を取り、上目遣いでこちらを見るイザークに、エレノアはまた突っ込んでしまった。

 真っ赤になって突っ込むエレノアに、イザークは口元を緩ませる。

「ごめん。さっきも言ったけど、エレノアに他の男が触ったなんて耐えられなくて、意地悪をした」

 どうやら果汁を滴り落とした一連の流れがわざとだったらしい。

 イザークは再びエレノアの手の甲にキスを落とすと、甘く囁いた。

「俺はどうやら独占欲が強いらしい」
「か、仮の妻なのに?!」

 そんな甘い言葉に耐えられなくなり、エレノアはまた突っ込んでしまった。

 するとイザークの手は、エレノアの頬に伸び、イザークの真剣な瞳が至近距離に来た。

「エレノア……、俺の気持ち、本当にわからない?」
「ザーク様の気持ち……?」

 ここまでの一連の流れの中で、エレノアももしかして、とは思った。でもまさか、と打ち消したことだった。

(ザーク様は、私のことが本当に好きってこと……? まさか……そんな?)

 イザークの熱い視線が絡み、逸らすことが叶わない。ドキドキしながらも、少しの期待に顔が熱い。

「エレノア……」

 イザークの大きな掌が、エレノアの頬を滑り落ちていくのがわかる。そのくすぐったさに、エレノアは思わず目を瞑る。

『いいですか、エレノア様! 今度そんなことがあったら、しばらくは目を開けてはいけませんよ?』

 この前のエマの言葉が頭をよぎる。

 エレノアはぎゅう、と目を瞑る。

 一瞬の間、桃の甘い香りがふわり、と鼻を掠めたかと思うと、その甘さは唇へと移った。

 キスされているのだと気付いた瞬間には、その甘さは唇から舌へと移り、エレノアは初めてのことに熱が頭までのぼり、何も考えられなかった。
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