教会を追放された元聖女の私、果実飴を作っていたのに、なぜかイケメン騎士様が溺愛してきます!

24.今は仮の夫婦

「……」
「……」

 シンと静まり返った執務室。先程まで熱い口付けを交わしていたエレノアとイザークは、抱きしめ合ったまま、お互いに無言だった。

 エレノアはまだ熱い頭でぼんやりとしながらイザークの腕の中で思考を巡らせる。

(ザーク様と、キス……しちゃったんだよね? キスは好きな人とするもの……だよね?)

「エレノア……愛している」

 ぼんやりとする頭の上から、イザークの声が降り注いだ。

「仮の妻なのに……?」
「俺は最初から真剣だ」

 オーガストの提案では、確か教会からエレノアを守るためだった。だからイザークの突然の告白に戸惑いが隠せないのは当然だと思う。

「え?! あの……」
「態度で示してきたつもりだが……」

 肩に置かれたアイザークの顔からため息が漏れるのをエレノアは耳で感じ取った。

(え?! 距離感がおかしかったのって……)

 ただの距離感がバグっている人だと思っていたエレノアは、これまでのイザークの態度を思い返し、赤面した。

「俺は最初から君への気持ちは何も変わっていない」

 エレノアの肩から離された顔が正面に移ると、真剣な瞳でイザークは言った。

(私、私は……)

 イザークの気持ちを初めて知ったエレノアは、嬉しさと戸惑いで目の前が滲む。

「今は、俺の気持ちをわかってくれただけで良い。君の自由を奪うつもりは無いから。君が離婚を望むのなら、俺は応じようと思っている」
「ザーク様……」

 イザークの言葉が、エレノアを優先してくれる変わらない優しさが、エレノアの胸に突き刺さる。

(嬉しいけど、私、何でこんなにも傷付いているの?)

「ただし、今は俺の妻だ。他の男には触れさせないで欲しい……」

 そっとエレノアの頭を撫で、懇願するような表情でイザークが言うので、エレノアも思わず頷いた。

 エレノアの頷きに安堵の表情を見せたイザークは、再びエレノアを腕の中に収めた。

(私は……教会から逃れられれば良くて。ザーク様とは任務のための結婚で。この幸せはいつかは手放さなきゃいけないものだと思っていた。でも、私はザーク様の側にいても良いの?)

 抱き締められたミモザの香りに、エレノアは安らぎを覚えながらも、どうすれば良いかわからなかった。
< 66 / 126 >

この作品をシェア

pagetop