溶けたラムネ入りの炭酸ジュースは、美味しくない。


「あ、先輩そういうこと言うんだ、付き添い人だなんて、私が本気でデートって思ってる可能性を捨ててまで、そんなこと言いますか?ひどいなぁ、デートが台無しだなあ」


胡桃は、何を思ってこんなことを言うんだろうか。

ほぼ初対面の僕に、介助ばかりさせたかと思えば、今度は本屋について来いだなんて、いやそんな言い方はしてないけども。


「先輩、エスカレーターもうすぐ降りますよ」

そう言いながら、後ろを向いていた胡桃は、前を向いた。

僕が考え事をしてぼーっとしてることを察知したかのように、降りなきゃいけないことを知らせてくれる胡桃の心はとっても優しいんじゃないんだろうか。

僕なんかより、優しくて、心が綺麗なんだろうな。

「あぁ、ありがとう」

「いーえ、先輩に助けて貰ってばかりなので、これぐらい全然です」

胡桃が降りて、僕も後を追うように降りる。

降りた目の前には、大きめの本屋さんが、そこにはあった。


「先輩!先輩!見てくださいよ、この空間、1歩入れば、時止まりそうじゃないですか?」

そう言って、胡桃は本屋に入る前に大きく息を吐いた。


そして大きく1歩を踏み出し、胡桃は息を大きく吸った。

「はぁ、ずっと見てられますこの場所」


「いや、時は止まってないけどな。息してるし。胡桃は、本が好きなのか?」

「はい、だいだいだいすきです!じゃあ、先輩にもうひとつ、わたしのこと教えてあげます」

胡桃の表情は、とても明るく見えた。

パァっと明るくなったかと思えば

「なんだよ急に」

「私、元々インターネットで小説書いて投稿してたんです」

急に暗くなって、下向き始めて、分かりやすいんだな。

「そうなのか?元々っていうことは、もう辞めちまったのか?」


暗い話に持っていかないように、気付かないふり、こんなとこで役立つなんてな。


「はい、辞めちゃいました」

胡桃は、諦めの顔をしていた。

理由は聞いてみないと分からない。

だが、聞いてみてもいい内容なのだろうか。

僕がそこまで、踏み込んでもいいないようなのだろうか。

僕が話を聞いて何が出来る?


僕に期待をしてるんじゃないか?

何か、特別なことはしてあげられなくていい。

僕だからできることなんて、誰でも出来ること。

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