初恋のつづき
「── 行ったの?」

「行ってないよ?その後別の打ち合わせが入ってたり、会社に戻らなきゃいけなかったりで。っていうか今舌打ち、した……?」

「前の車がウィンカーも出さずに車線変更して来たから、イラッとしただけ」

「あぁ、うん、あれは危ないよね」


……名桐くんは、あれだろうか。

ハンドルを握ると人が変わるタイプの人で、こういう時、昔の片鱗がひょっこり顔を出してしまうんだろうか。

運転はちっとも荒くないし、それよりもむしろ丁寧で、隣に乗っていてとても心地良いのだけれど。

……10年前も今も、名桐くんに関しては知らないことだらけだなぁ。



「……あ!そう言えば!」


一つ、気になっていたことを思い出した。


「さっき言ってたスイーツビュッフェに行った同僚って、もしかして……」


名桐くんに尋ねてみれば、案の定、その横顔がニヤリとした。


「ああ、渋谷」

「やっぱり!」



渋谷さんはこの前3人で飲んだ時、締めに生クリームたっぷりのフルーツパフェを一人で美味しそうに完食した上、さらにフォンダンショコラも追加で注文して幸せそうに食べていて、その食べっぷりはとても気持ちの良いものだった。

でもそれを清々しい気持ちで眺めていれば、渋谷さんはなぜかバツの悪そうな顔をした。


『── あ、ごめん、引くよね、俺みたいなのが甘いのこんなに食べてたら。でもお酒飲むと、いつも以上に甘いの食べたくなっちゃって。今日は楽しいお酒だったから、つい……』


なぜか叱られて耳と尻尾がしょぼん、と垂れ下がった犬みたいになってしまった渋谷さんに、私は言った。


『いえ!その気持ち、分かります。それに引きませんよ?渋谷さんの食べっぷりは、見てるこっちまで幸せな気持ちになりますから。好きなものは好きなだけ!気にせずどんどん食べちゃってください!』

『……有賀さん……。千笑ちゃんって呼んでも良いですか!』

『良い訳あるか』


素直な感想を言っただけなのに、なぜかいたく感動した様子の渋谷さんが握手を求めるように私の方へ手を伸ばし。

でも、その手は名桐くんの間髪入れずのツッコミと共に容赦なく(はた)き落とされていたのだった。



── ビュッフェに行っていたのは、やっぱり渋谷さんだった。

そこで私はもう一つ、気になっていたことを聞いてみることにした。
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