コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「久しぶり。水惟。」
蒼士が落ち着いた声で言った。

「………」

水惟は蒼士に名前を呼ばれたことに戸惑いを覚えた。
二人だけの室内はどうしても息苦しい。

「前に会った時より元気そうだな。少しふっくらした?」
蒼士はなぜか安心したように言う。

(前に会った時…)
それは4年前だ。

「髪も染めたんだ、黒い頃より水惟らしいな。」
水惟には蒼士の言葉の一つ一つがよくわからない。

「あの…」
「ん?」
「なんなんですか?名前で呼んで…それに…元気そうなんて…あなたに言われるのは不愉快です。」
水惟は眉間にシワを寄せて言った。

「………」
蒼士は水惟の顔をまじまじと見て、何かを考えているようだ。

「…水惟、もしかして—」
「名前で呼ばないでください。あくまでも仕事で来てるんです。それに、私達はもう…他人ですから。」
水惟の鼓動が少し早くなる。

「す…いや、藤村さん…もしかして4年前のこと覚えてない…?」

水惟には蒼士が何を言っているのかすぐには飲み込めなかった。

蒼士の言葉を頭の中で繰り返すと、怒りが込み上げた。

「…忘れるわけないじゃない…」
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