コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
***

今日の夢はいつもの曖昧な夢と違って、随分とはっきりしていた。

(懐かしいな…)
浅くなった眠りの中で、水惟は当時のことを思い出していた。

(あの時…どうして急に結婚なんて言ったんだろう…)

当時の二人の間に結婚という言葉が出てきたことはあの時まで一度も無かった。
大人同士の交際だったのでもちろん水惟も蒼士との結婚を想像したことが無かったわけではない。
しかし蒼士は水惟にとって初めての恋人だったし、深山家の跡継ぎということもあり、軽々しく口にして良い言葉ではないと思っていた。

(わかんないなぁ……ぜ〜んぜん…わかんない……)

それから何度か浅い眠りの中で断片的な夢を見た。
そのどれもが蒼士と出会ってから結婚して離婚するまでの間の夢だった。

(んー…)
居酒屋を出て数時間が経った頃、水惟はゆっくりと目を覚ました。
目の前には見覚えのある高くて白い天井が広がっている。

(冴子さんたちと飲んでた最後の方の記憶が無いけど、ちゃんと帰って来たんだ…)

(よかった…)
もうひと眠りしようと目を閉じた。

(………)

(……?)

どことなく違和感を覚えた。

(え!?)
水惟はパチっと目を開けた。


(ここって…)

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