コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
ある日、水惟は乾と出版社のキャンペーンポスターの件で打ち合わせをしていた。

「ここのコピーはこのフォントで、このサイズがベストだと思います。」
水惟が言った。

「何言ってるの?そのフォントじゃコピーが目立たないでしょ。」
「でも、このポスターはコピーよりも写真で見せるものだと—」
「は?出版社のキャンペーンがコピー読ませないでどうするの?」
乾の言葉にはいちいちトゲがある。

「読ませないわけじゃなくて」
「あのさぁ…っ」

「ストップ」

声を荒げようとする乾と水惟の間に割って入ったのは氷見だった。

「忌憚なく意見を言い合うのは悪いことじゃないけど、冷静に議論しなさい。」
氷見はテーブルに置かれたポスターのラフを手に取った。

「乾。この件は乾に任せてるけど、コピーの入れ方に関しては水惟が正解だと思うよ。」
乾はムッとした。

「でも出版社のキャンペーンですよ?文章を主役にするべきじゃないですか?」
「その“べき”は誰のため?」

「先方のヒアリングの時だって、出版社らしく文章で勝負したいって言ってましたけど。」
「文章で勝負って、文章をビジュアルの主役にすることだけじゃないでしょ?水惟は写真で惹きつけて、コピーを読ませようとしてる。」

「でも洸さんの時だって—」
「乾、洸さんは関係ないでしょ。ディレクションするなら自分の責任でやらなきゃダメだよ。」
「でも—」
乾は全く納得がいっていない様子で食い下がろうとした。
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