コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「わかった。じゃあ初回の提出は乾の案と水惟の案、両方出そう。それで選ばれた方が要望に応えてるってことだよ。乾のイメージも仮の写真で組んでおいて。」
氷見がやや呆れながら提案した。

「あの、私…」

「水惟、乾が先輩だからって自分の意見を下げる必要は無いよ。クライアントへのベストを提案するのが私たちの仕事なんだから、水惟が遠慮して案を下げたらクライアントに失礼だよ。」
氷見は水惟の考えを読んで釘を刺した。
「…はい…」

結局その案件では氷見の言った通り、水惟の案がクライアントに選ばれた。


「いいよね、水惟は。洸さんにも氷見さんにも気に入られて、次期社長の奥さんなんだから。」
二人きりのタイミングを見て、乾が水惟に嫌味っぽく言った。

「え…」
水惟は怪訝な顔をする。

「水惟だってわかってるんじゃないの?この会社にいたら自分が超特別な存在だって。深山 水惟なんて名刺出されたら誰だって水惟の方を選ぶよね。」
「そんなこと…」
「無いって言えるの?」
「………」
それを水惟自身が判断するのは無理なことだ。


「なんかさぁ、クリエイティブの深山さんの奥さんて超贔屓されてて—」
「実力以上に評価されてるらしくて—」
「他の人の方が良いデザイン出しても深山さんの—」


いつの間にか根も葉もない噂が広まっていた。
そしてそれはすぐに水惟の耳にも届くことになった。
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