コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
水惟は美術系の大学のグラフィックデザイン科時代にデザイン事務所にインターンに行ったり、さまざまなコンクールで入賞するなど、実務でも賞歴でも実績を上げていた優秀な学生だった。
それでもさらに必死に努力して就職活動をし、大手の深端グラフィックスに入社した。

憧れの会社で最初は営業の研修なども受け、第一希望のクリエイティブチームに正式に配属されることとなった。
学生の頃とは違い、クライアントの要望や予算など多くの制約の中で行うデザインは難しくもあり、学びも多く何もかもが新鮮だった。
水惟はめきめきと実力をつけ、相応の評価も獲得していた。
洸をはじめとした先輩や同僚にも恵まれ、深端で働くのはとても楽しかった。

あんなことがなければ、きっと今でも深端グラフィックスのクリエイティブチームで第一線のデザイナーとして活躍していただろう。


それは洸が、そして水惟自身も時々想像してしまうことだ。
< 4 / 214 >

この作品をシェア

pagetop