コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

変わらない

(…スピーチどうしようかなぁ…リバースのみんなへの感謝の言葉は入れるでしょ、それから…はぁ…気が重いなぁ…国語苦手…)

あれから数日、水惟はスピーチの文章を考えるのに頭を悩ませていた。

デスクに顎を乗せて思い悩んでいると、一枚の案内ハガキが目に留まった。

(あ、一澤 蓮司(いちざわ れんじ)の個展、今日までだ。)
会社近くのギャラリーからの案内だった。

一澤 蓮司はイラストレーターでグラフィックデザイナー。
POPな色づかいで花やフルーツを大胆にレイアウトした作品で若い女性を中心に人気がある。
水惟も大好きなアーティストだ。

仕事帰り、水惟はギャラリーに立ち寄ることにした。
歩きながら授賞式のことをあれこれと考える。

(授賞式ってことは正装しなきゃいけないよね。服どうしよう…)

(…あの頃はパーティーにもよく出てたっけ…)

蒼士との婚姻期間中は、深山家の跡継ぎとその妻という立場上、水惟は蒼士に付いてわけもわからずよくパーティーに出席していた。
25,26歳という年齢だったこともあり、水惟はいつも場違いな気がして大人たちの中で所在無さを感じていた。
今の、パーティーなどとは縁遠い庶民的な生活からすると、当時のことは現実味の無い煌びやかな記憶だからかなんだかハッキリとしない。

(あの頃のドレスが一着くらいはまだあったはず…)

そんなことを考えながらギャラリーに辿り着くと、ボーっと俯いてギャラリーのガラスドアを開け、中に入った。

「え」
< 46 / 214 >

この作品をシェア

pagetop