コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「今日のリバースはなんだか静かだね。」
ミーティングルームに案内された蒼士が言った。

「みんな出払ってて、蛍さんは灯里ちゃんのお迎えに行っちゃったので。」
「ふーん。」

蒼士の質問のせいで今この事務所に二人きりだということを変に意識してしまうことになった。
(…いや、べつに…仕事だし。)


「いろいろ考えてみたんですけど…」

ミーティングルームのテーブルの上に、水惟が考えたjärviのロゴが並べられた。
パソコンで仕上げられたようなものもあれば、手描きのスケッチのようなものもある。
蒼士はその一点一点を手に取ってじっくりと見た。
表情はどことなく嬉しそうだ。

「湖上さんの要望を取り入れてるのはこれとかこの辺りだけど、水惟らしいのはこっちだね。」
蒼士が手描きの赤いロゴを指差して言った。

「それ…」
それは水惟が一番気に入っているデザインだった。

「これ、イチゴ?」

そのデザインは水彩のようなムラのある優しい赤に、白い手描きの水玉模様がまばらに入ったものだった。

蒼士の質問に、水惟はコクリと頷いた。

「そのデザインは、ロゴをお願いするって言われてからすぐに頭に浮かんだものです。湖上さんの要望を聞く前のものだから、要望には応えられてないけど…私がお店に行ってお茶をした印象をデザインしました。」

「ストロベリータルト?」
蒼士が笑顔で聞いた。
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