コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「…なんか食い意地が張ってるみたいだけど…でも、そうじゃなくて、järviのストロベリータルトってキラキラして宝石みたいで、あの空間もスタッフの人も楽しそうで、お客さんもみんなニコニコしてて…タルトの宝石みたいなキラキラって、あの空間自体の持ってるものだって思ったから、イチゴの要素を象徴的に取り入れました。お店の緑との対比もきれいだから、ポスターでも他のアイテムでもアクセントになると思います。」

どちらかというと普段は口数が少ない水惟だが、デザインの説明やプレゼンでは言いたい事が溢れてくる。

「………」
蒼士はそのまましばらく無言でそのロゴを見つめた。

(…何か言ってくれないと気まずい…)

「—うん、良いね…すごく—」

蒼士が言葉に詰まった。

(…え…)

水惟のデザインを見る蒼士の瞳が潤んだように光っている。

「…なんていうか、すごく…水惟らしいな—」

そこまで言って、蒼士は右手で目を覆った。

「ごめん…」
蒼士は目元を拭うような仕草を見せた。

(…涙…?)

(泣いてるの?どうして?)

(…でも…私、この表情(かお)…知ってる…)

蒼士がよく泣いていたような記憶は無い。
水惟の頭が鈍く痛む。
本当は痛く無いのかもしれないような、頭が混乱している感覚だ。

「………」

水惟は何も言えずにただ蒼士を見ていた。
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