コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「じゃあ、また。」
「………はい…また…」


「ひょっとして、蒼士となんかあった?」
蒼士がいなくなった事務所で洸が聞いた。

「え!?何もないけど…!」
水惟はギクッとしながら必死にごまかすと、パソコンに向かった。

(さっきの…)

蒼士が水惟の頬に触れようとした場面を思い出していた。それは、蒼士が水惟にキスをする時によくしていたことだった。

右手で頬に軽く触れ、髪を撫でて、顎をクイッと上げて最初は唇に触れるようなキスをする。

(あのまま、洸さんが帰ってこなかったらどうなってた…?)

——— 俺は水惟のことは嫌いじゃないし、これから先も嫌いになんてならないよ

(私のこと、嫌いじゃない…?)

(他に好きな人がいたわけでもない…)

(じゃあなんで…)

(なんで私達、離婚したの?)

“昔のこと”と思ってはいるが、たったの4年前のことがなぜこんなに思い出せないのか、水惟は不思議に思っていた。

(涙…)

蒼士が一瞬だけ見せた涙が、なぜこんなに心を掻き乱すのか、水惟には理由がわからない。

耳が熱い。
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