コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
それから二人は駅までの道を並んで歩いた。

「あの…この前のどら焼きも…ごちそうさまでした。その前のゼリーも…」
「ああ、うん。」
俯きながら照れ臭そうに言う水惟に、蒼士はクスッと微笑んだ。

「おいしかった?」
「う、うん。木菟屋なんて滅多に食べれないし、イチゴ入りのは初めて食べたから、びっくりするくらいおいしくてちょっと感動しちゃったくらいで—」

水惟が顔を上げると、蒼士が優しくみつめるように微笑んでいた。

(………)

水惟の胸がキュンと締め付けられ、また心臓が細かくて速いリズムを刻む。

「そんなに喜んでもらえたなら、持って行った甲斐があった。」
さらに破顔するような笑顔を見せる。

「えっと、うん、あの…あの日、洸さんがお家に持って帰ったら、灯里ちゃんがどら焼き食べて元気になったって…」

「それはさすがに食べる前から元気だったと思うけど。嬉しい。」
蒼士がまた笑う。

「う、うん」
(落ち着け、心臓…)

「水惟はメトロだったよね。俺はこっちだから—」

「あ、あのっ…!」

駅で別れようとする蒼士に、水惟がまた話しかけて呼び止めた。
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