コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
目的の部屋に着いた。
ドアプレートには【会議室A】と書かれている。

「ところで、なんで打ち合わせが日曜なんですか?」
「先方の営業担当の都合。」
「そういえば今回の営業担当って…」
「誰でしたっけ?」と水惟が聞こうとしたタイミングで洸がドアを開けた。

———ガチャ…

「失礼しまーす。」
洸から先に入室した。

「失礼します。」

洸に続いて入室した水惟は、部屋の中にいた人物の顔を見て頭が真っ白になった。
スラッと背が高く、ふんわりと軽い黒髪のアップバングに切長の瞳で鼻筋の通った端正な顔立ちの男性。

(………)

「洸さん…」
水惟が不安げな小声で洸を読んだ。

「………」
洸は背中を向けたまま何も言わなかった。

(…そうだよ、一人でも大丈夫って言ったじゃない。)

「洸さん、ご無沙汰してます。」
部屋の中にいた男性が言った。

「おう、ちょっと久しぶりだな。営業部長になったって聞いたぞ。」
「ああ、そっか。名刺が変わってから会うの初めてですね。あらためて名刺をお渡ししてもいいですか?」
そう言って、男性は洸に名刺を渡した。

「…藤村さんもいいですか?リバースデザインに行かれてからお会いするのは初めてなので、できれば名刺交換させていただきたいのですが。」
男性に話しかけられ、水惟の息が少し苦しくなった。
心臓も落ち着かない音を立てている。

「…はい」
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