コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—

靴のサイズ、昔のドレス

水惟はスピーチを終え、洸や蛍のいるところに戻っていた。

「すっっっごく良かった〜」
蛍はハンカチを目に当てながら言った。
「えっ…蛍さん、泣いてる?」

「うんうん、すげー良かったよなぁ…」
洸が鼻をすする。
「洸さんまで!?嘘でしょ!?」

水惟は洸の隣に立っている啓介の方を見た。啓介は平然としている。

「いや、スピーチはたしかに良かったけどさぁ…洸さんと蛍ちゃん、かなり冒頭の方から泣いてて正直ビビった。」
「俺たちには親心みたいなもんがあるんだよ…」
鼻をすすりながら洸が言った。

(洸さん…“30歳の娘がいてたまるか”って言ってたのに…)
クスッと笑った水惟の目も潤んでいる。

「なんだよ水惟もかよー」
啓介が驚いたように言った。
「だって…なんかもらい泣き…」

「一時はどうなるかと思ったけどさー、あれはあれで水惟らしくておもしろかったよ。」
「もー!アッシーって本当に意地悪。アッシーがスピーチしたって良かったんだからねー!」
水惟は恨めしそうな目で見た。

「いや〜やっぱディレクターが代表して挨拶してくんないとさ〜」
啓介は普段通りの軽口を叩く。

水惟は大役を終え、普段通りの仲間たちとの時間に安堵していた。


(さっき…)

水惟は壇上から見た蒼士のことを思い出した。

(助けてくれた…)

胸がキュ…っと苦しくなる。
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