コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「水惟がリバースにいたいって言ってくれるなら、ずっといて欲しいって思ってるけど…水惟が深端を離れたのが、俺が思ってたタイミングよりずっと早かったから…」
「………」

「水惟自身が不本意だったんじゃないかと思ってるんだけど、違うか?」

「それは…」

「水惟は深端に入るためにめちゃくちゃ頑張ったって言ってただろ?たしかに深端は大手だから、第一線の、最先端の仕事に関われるし、人脈も広がる。俺は深端でやり切ったって感じたから独立したけどさ、水惟は違うだろ?まだ深端でやりたかったことがあるんじゃないのか?」

「深端でやりたかったこと…」
水惟にはいまいちピンとこない。

「私…記憶が混乱してるみたいで…あの頃のことってよくわからないことも多くて…」
「だろうな…」
洸は水惟の記憶が曖昧なことに気づいていた。

「蒼士はずっと水惟のことを気にしてて—」
水惟の胸がギュッと苦しくなる。

「水惟が深端に戻れるようにしたいって前から言ってた。」
「でも、辞めろって言ったのは…」

洸は頷いた。
「あの時はそれが…いや—」

「………」
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