コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「水惟、今回の話はすごく良い話だ。」

水惟は困惑した表情(かお)をする。

「蒼士は水惟が良い条件で戻れる機会をずっと(うかが)ってた。水惟が広告賞を獲った今なら、立場も給料も高待遇で戻れる。」
「でも…」

困惑したままの水惟を見て、洸は眉を下げて笑った。
「もちろん水惟の気持ちが最優先だ。もしリバースにいたいって思ってくれるなら、それはもちろん大歓迎だよ。でも、よく考えてから結論を出した方がいい。」

「…はい…」

——— 蒼士はずっと水惟のことを気にしてて
——— 水惟が深端に戻れるようにしたいって前から言ってた

(どうして?)

(…罪悪感…とか?)

水惟は就職活動で深端グラフィックスを受けた頃のことを思い出していた。
たしかに深端に入りたい、と必死になっていた時期があった。
しかし、デザイナーを目指した時から深端に入るのを目標にしていたわけではない。

(なんで深端に入りたくなったんだっけ…)

(深端でやりたかったこと…)

思い出そうとすると、頭に(もや)がかかったように鈍く重い感覚になる。
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