コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「話は戻るけどさ〜深山さんて絶対水惟のこと好きだよ。仕事なんかじゃなくて。」

(戻さなくていいよー…)
水惟は唇を尖らせながら目の前にあった芽衣子の赤ワインを間違えてぐびっと飲んだ。
芽衣子は気づいていない。

「あの撮影の日だって、アッシーに超ヤキモチやいてたじゃん。笑っちゃうくらい。」
「え、何それ。」
冴子が興味を示す。

「さっき水惟も言ったけど、撮影にアッシーがついてきたのね。」
「うんうん」

「深山さん、アッシーが自己紹介した時からピリピリしててー。」
「絶対してないよ…」
水惟がボソッと言った。

「それがおもしろくてさ、ついイタズラ心が出ちゃってね。水惟とアッシーをカップルにして撮ってたの。」
(メーちゃん…あのときやっぱり悪ノリしてたんだ…)
水惟は頬を膨らませた。

芽衣子の話が止まらないので、水惟はテーブルの上の酒を片っ端から飲み始めた。

「深山さんて基本、スーツじゃない?」
「営業だからね〜」

「アッシーと水惟は私服みたいなカジュアルな服同士だったから、カップルっぽいね〜とか言って。それも気に入らないみたいでイライラしちゃってね。」
「ふざけてたからイライラしたんだよ…」
水惟がまたボソッと言うが、芽衣子と冴子は気に留めていない。

(本人から“お似合い”って言われちゃったし…)
今度は白ワインを飲んだ。

「そしたらさー、アッシーが水惟のほっぺにキスしちゃって!深山さんも水惟も同じ顔で同時にお互いの方を見たから笑っちゃった。焦った顔っていうか〜絶対二人ともまだ好きじゃんって思った〜。」

「深山くんの焦る顔とか見てみたいわ。」

「焦ったんじゃなくて、仕事中にあんなことする人がいるなんて思わないからドン引きしたんでしょ。」
「もー水惟、ぶつぶつうるさい!」
「むー…」

なぜか芽衣子に怒られ、水惟は酔いの回ったようなしかめっ面で口を閉じた。
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