コーヒーにはお砂糖をひとつ、紅茶にはミルク —別れた夫とお仕事です—
「まあ、倍率云々て話もあるけど、今回のその話は実際良いと思うわよ。」
今度は冴子が言った。

「大手だからお給料も安定してるし、何よりメー子も言った通り常に最先端の環境だしね。」
「洸さんにも言われた。」
水惟はポテトをつまんで口にした。

「それに…チーフになれるんでしょ?水惟まだ30歳だよね?深端で30のチーフってかなり異例の高待遇のはずよ。」
「そうなんだ…」
水惟は深端在籍時も出世にあまり興味が無かったため、この手の話題に疎い。

「あ、それに油井(あぶらい)さんとか(いぬい)さんとか、もう辞めたのよ。」

「油井さんと乾さん…?…誰だっけ…?」
冴子の口にした名字が全くピンとこない。

「え、水惟…覚えてないの?」

「う、うん…なんだっけ…なんか仕事一緒にやった人?」
冴子と芽衣子はまた顔を見合わせた。

「その二人は—」

芽衣子が言いかけると、冴子がテーブルの下で手を引っ張って制止し、小声で囁いた。

「メー子、やめな。忘れてていいよ。」
「そっか。」

水惟はキョトンとしている。

「まあとにかく、深端に戻るって悪くないと思うからよく考えて決めた方が良いって話よ。」

「…うん。」
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