片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
「すいません!」

 急いで立ち上がり、紅茶がかかってしまったスカートへハンカチを差し出す。
 と、そのスカートには見覚えがあった。

「んもう! 最悪、何すんのよ」

 機嫌を損ねた声にも聞き覚えがあり、顔を上げてみる。
 私からハンカチを乱暴に奪い、拭う人物はーー。

「笠原さん?」

「は? えっ、町田先輩?」

 私がすぐ粗相の相手が後輩の笠原さんと気付いたのに対し、笠原さんの方は認識するまで間がある。

 パチパチとカールした睫毛を不躾なまで瞬かせ、やっと私の顔を思い出す。

「え、え、なんで先輩が此処に?」

 即座に紅茶をかけられた不快感を引っ込め、猫なで声に変わる。

「この人、知り合い?」

 連れ立つ女性が私達の関係を尋ねてきた。

「か、会社の先輩なの。いつもお世話になってて」

「あぁ、残業とか代わってくれる先輩だっけ? 今日の合コンも先輩が休日出勤してくれるから行けるんだよね。先輩、ありがとうございます!」

 何故か、連れの女性からお礼を言われ、どんな顔をしていいか分からない。

「あー、あー! てか、先輩はデートですか? うわ! よく見たら朝霧さんじゃないですか!」

 今日はプロポーズされるのでは無かったのかと聞かれる前に話題を移す。遠目でも誠をイケメンと見抜く感性は素晴らしいの一言に尽きる。
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