片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
 誠の『ニカッ』という効果音が付きそうな表情に吹き出しつつ、ドキドキする。

「またまた、誠ってば上手いんだから」

 彼には聞こえないボリュームで、自分に言い聞かせるよう呟く。

 誠はスーツとは違う色気があり、コーヒーを飲む仕草も絵になる。周りに居るお客さんの視線を集め、芸能人かなと噂する声が聞こえた。

「ん? どうした? 飲まないの?」

 傾げながら手付かずの紅茶を促す、誠。

「あ、うん。なんだか緊張してきちゃって」

 あははと乾いた笑いを湿らす為、カップを手に取る。

「もしも母さんが茜に失礼したら怒るよ。って言っても緊張するよな? 俺も茜の立場ならするし」

 もちろんお母さんに会うのも緊張するが、芸能人と勘違いされる雰囲気の持ち主とお茶をする事自体を意識し始める。

 私は誠の彼女役をやれて光栄だ。しかし周囲にはどう映っているのだろう?

「ねぇ、あの人、超カッコ良い! てかアレ彼女? 地味じゃない?」

 その声を拾った瞬間、私は一気に不安の波に飲み込まれた。カップをひっくり返してしまい、テーブルの横を通り掛かる声の主の裾を汚してしまう。
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