片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして
「……」

 何だか悔しい。未だに誠に好きだと伝えられると照れて、あんな反応をしてしまう。誠も慣れない姿を楽しむ節がある。

「誠」

「え?」

 扉が開く直前、私は彼のネクタイを引っ張った。彼は予期せぬ行動に姿勢を崩し、耳元が近くなる。

「私も愛している。今夜ベッドで沢山伝えてあげるね」

 この形の良い耳へ目一杯甘く囁いてからエレベーターを降りることにした。

「わっ! 朝霧さん、どうしたんですか? 大丈夫ですか?」

「え、エロい……」

「はぁ? 誰か、手を貸してくれ! 朝霧さんが鼻血を出しそうな顔してる!」

 入れ違いで乗り込む社員が座り込む彼に驚く。
 私は心の中で赤い舌をチロリと出し、その場を後にした。

 さて、あんな風に煽ってしまった手前、今夜は長いだろう。ひょっとして夜が明けないかもしない。

「よし、栄養ドリンクも買っておくか」

 ーー呟きは喧騒に溶けていく。

「朝霧さん、朝霧さん! 大丈夫ですか?」

「……大丈夫じゃない」

「誰か! 誰か! 朝霧さんがエレベーターの中で動けなくなってる!」


おわり
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