しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~

「わかりました……」

 観念した衣都が渋々頷いたその時、大広間の扉がギイッと軋んだ音をたてながら押し開かれた。

「やあ、衣都ちゃん。調子はどうだい?」
「おじ様!」

 片手を上げた秋雪が靴音をかき鳴らしながら、こちらにやってくる。
 軽く会釈した衣都は異変にすぐに気がついた。
 秋雪の傍らにいつも寄り添っている綾子の姿がどこにも見当たらない。

「あの……おば様は?」
「私も一応、出がけに声はかけたのだけれどね……」

 秋雪はバツが悪そうにそう言った。

(そんな……!)

 まるで足元の床が抜けたかのような絶望的な気持ちだった。
 出席すると言っていたはずの綾子が約束を違えた。

(ううん。まだ決めつけるのは早いわ。まだ時間はあるもの……。きっと来てくださるわ)

 しかし、衣都の願いも虚しく、招待客を屋敷の中に招き入れる時間になっても、綾子は姿を見せなかった。
< 133 / 157 >

この作品をシェア

pagetop