しきたり婚!~初めてを捧げて身を引くはずが、腹黒紳士な御曹司の溺愛計画に気づけば堕ちていたようです~
(余計なお世話だ)
しきたりがなくても、ケダモノのように手当たり次第女性を漁るような真似はしない。
響が欲しいと望むのは、衣都だけだ。
結婚はしきたりの副産物にすぎない。
しかし、衣都はそうは思わないだろう。
だから響は自分にある枷を課した。
衣都から望まれないかぎり、絶対に手を出さない。
その代わり、望んでくれたら二度と離しはしない。
忌々しいことこの上ないしきたりだったが、愛する女性を囲う檻としてはちょうどいい。
その時がやってくるまで、響は拗らせた独占欲をチョコレートで包んで隠した。
甘い毒を孕んだチョコレートを食べさせられているとは、衣都は夢にも思わなかっただろう。
待望の日は、思いもよらない形で唐突にやってきた。
『お願いです……!今日だけでいいから……恋人みたいに愛して欲しいの』
――響がどれほどその言葉を待ちわびていたか、衣都だけが知らない。
(やっと、この手に堕ちてきてくれた……)
チョコレート味の甘い罠。
か弱いウサギを捕まえるための甘い疑似餌。
響は想像の中で何度汚したかわからない、本物の衣都を腕に抱き、したり顔でほくそ笑んだ。