財閥御曹司に仕掛けられたのは、甘すぎる罠でした。

6 一夜限りのシンデレラ

 私は今、イタリア系高級ブティックの一点ものだというドレスに身を包み、さらにプロのアーティストの手によってヘアメイクを施されている。

「できましたよ」

 つぶっていた目を開け、目の前の鏡に映った自分を見る。

 ――信じられない。これが、私だなんて。

 自分で見惚れてしまうほどの、美人がそこにいた。

「うん、思った通りだ。とても綺麗だよ、依恋さん」

 後ろにいる悠賀様と鏡越しに目があって、頬が熱くなった。

 ――私がこんな経験をすることになるなんて。

 私は先刻、支配人室で悠賀様に告げられたことを思い出していた。

 *

 恐々としながら、悠賀様の後に続いて支配人室に入った。
 ここには、一週間ほど前に見てしまった、私の履歴書とメモ書きがある。
 それだけで胸が凍るように冷たくなり、息ができないほど苦しくなる。

「あ、あの……」

 何かされるなら、さっさと手を下して。
 そう思って、口を開いた。

 なのに。

 悠賀様は執務椅子に座り、そのひじ掛けに肘を乗せ、手の甲で頬杖をつく。
 それからこちらににっこりと笑って告げたのだ。

「今夜の桜堂グループのパーティーで、僕のパートナーを務めてくれないかな?」

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