財閥御曹司に仕掛けられたのは、甘すぎる罠でした。
「依恋」

 低い声で名を呼ばれ、身体がピクリと震える。
 伸ばしていた手を、慌てて引っ込めた。
 叔父様の声に、私は逆らえない。

「も、申し訳ございません……」

 誰に対する、何に対する謝罪なのだろう。
 けれど、今の私にできることは、そう言って縮こまること――。

 私は立花家の人間だ。
 どうして悠賀様が来てくれたのかは分からないが、桜堂家とは相容れない存在。
 手を取ろうだなんて、どうかしている。

 そう、思ったのに。

「依恋さん、では私たちのお見合いはなかったことにしましょうか」

「え……?」

 そう発言をしたのは、お見合い相手の彼だった。
 彼は先ほどまで叔父様にゴマをすっていた時とは違う、きりっとした顔をしていた。

「何、で……?」

「私としては、立花財閥よりも桜堂財閥の後ろ盾があった方が、嬉しいですからね」

 口角をニヤリと上げた彼は、悠賀様に視線を投げる。
 悠賀様は余裕の笑みで頷いた。

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