財閥御曹司に仕掛けられたのは、甘すぎる罠でした。

9 身も心も攫われて

 立ち上がった叔父様、対峙するは桜堂財閥の御曹司、悠賀様。

「と、取引だと!? こちらはお見合いで――」

「お見合いだったのですか。先ほどから、彼は立花様としか話していないように見受けられましたが」

「何……っ!?」

 憤慨する叔父様と、それを軽やかに流す悠賀様。
 私はただそんな二人を、呆然と眺めることしかできない。

 どうして悠賀様はここへ? 何のために?

 叔父様をなだめるでもなく、へつらうでもなく、ただ堂々と対峙し余裕の見せる悠賀様。
 そんな彼を見ていると、心が期待してしまう。
 期待をするだけ、無駄だと分かっていても。

「まあ、どっちにしても同じことですよ。私が、貴社も依恋さんもいただきますから」

 悠賀様はそう言うと、こちらに笑みを向けた。
 目が合う。
 その優しく細められた瞳に、胸がきゅうっと掴まれてしまう。

 ――悠賀様、今なんておっしゃったの……?

 彼の口から紡がれた言葉が、信じられない。
 呆然としたままの私に、悠賀様は手を差し出した。

「おいで、依恋。君は君なんだ、立花財閥の『もの』じゃない」

 悠賀様……。

 涙が溢れた。
 こんなに心から焦がれた人に、差し出された温かい手。
 私はそれを掴もうと手を伸ばした。

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