君は運命の人〜キスから始まったあの日の夜〜
してほしいと言わんばかりに、私は彼の厚い胸板に額をつける。彼と同じように、私も彼を欲していたのだ。脇と膝裏に腕を差し込まれたかと思うと、ふわりと体が浮き、寝室に連れて行かれる。そっとベッドの上に下ろされると、四つん這いになった彼に見下ろされる。雨で濡れたシャツが、背中にふっつく。あるはずの冷たさは、熱を帯びた彼の美しい瞳に奪われていた。
「一つだけ、言わせて下さい。あの時の男性が、副社長だと分かって嬉しいです」
「……」
「副社長??」
「お前、煽るのが上手いな」
「そんなつもりは……」
「フッ……」
笑った……いつもクールな副社長が笑った。
その笑みは、冷徹という言葉からは程遠く、優しかった。
「今から俺のことは隼人と呼べ。いいな?」
「……隼人。…… 好き……」
胸が、熱い……。
「椿……__好きだ」
彼の首に腕を回すと、それが合図かのように、甘いキスが落とされた。
この夜、私は感じたこともない幸福に満たされたのだった__。
< 21 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop