君は運命の人〜キスから始まったあの日の夜〜

今までとあの日まで、そしてこれからは 隼人目線

自分が他者とは違う存在だと気づいたのは、まだ片手で年齢を数えられる頃だった。父に連れられてやって来たパーティーで、自分を見た大人達は「後継者」という言葉を口にした。
「父さん、後継者って何?」
そう問いかけた俺に、父は会場を見渡し、
「お前は将来、私の後を継ぎ、ここにいる人間全員のトップになるのだ」
そう言われ、最初は子供ながらに、責任感と似たような思いを持ったのだと思う。曽祖父の代から続く家業を継ぎ、企業のトップとして、一家の家長として父が見せる背中は勇ましく、憧れていた。
__でも、ある時、気づいてしまった。
みんなが見ているのは俺ではなく、宝月家だということを。優しい大人も、親しい友人も、好きだと言う女も、みんな俺を見てなんてなかった。それから、父に期待されればされるほどに、周りの大人達に気を遣われるほどに、ただ息苦しいだけだった。恵まれた環境。約束された将来。地位も金も、全てがここにあるというのに、俺は幸せを感じられなかった。いつも孤独で、出口のない暗いトンネルを彷徨っている気分だった。
そんな俺を支えてくれたのが母だった。
大企業の娘だった母は、幼馴染であった父と政略的でもありながら、恋愛結婚をした。強く、優しく、美しい母は、いつだって俺の良き理解者で、一番の味方だった。二言目には、「後継者なんてやめてしまえ」一目も気にせず、大声でそう笑う母の姿は俺の支えであり、希望そのもの。
「あなたには、自分の道を歩く権利がある。それは、父さんにも、母さんにも、決めることはできないのよ」
生まれた時から約束された将来。背負う定め。だけど、母がいてくれたから、俺は自分を保っていられた。

だけど、俺が十五の時だった__。
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