語彙力ゼロなアドレナリン女子は、ダウナーなイケボ男子をおとしたい
 そして、日埜藤馬は伝統に従順ゆえに中々しつこかったので、一旦付き合うことを了承した。婚約者云々なんて抜きにすれば、藤馬は他の人とも結婚できるし、それこそ自由恋愛できるのに、わざわざ伝統を守ろうとするのはなぜなんだろう?と思う。
 私は自分が好きになった人と、テストステロン値高めの感じで愛し合いたいのに。

 藤馬とは適切な距離を保った、健全なデートを何回も重ねていったら、痺れずに握手は出来るようになった。ただそれ以上はどう頑張っても無理だと思う。

 ただ、その「無理」は私目線のものであって、藤馬のものじゃない。

 夏期講習の最終日で、これから休み期間に入るという放課後に、
「家族所有の別荘があるんです、行きませんか?」と言われて誘いを受けた。私は目を細める。どうしてこんな見え見えの手を使うんだろう。

 藤馬は隠すつもりもないようで、柔らかに緩む口許と有無を言わさない瞳で、
「行きません?」と言うのだ。
 悪い奴だ。

 でもここで無理だと分かってもらうのもチャンスだと思う。
「いいよ、別荘地で殴り合おうぜ!」
 と私が言うと、冗談だと思われたのか、「本当に?」と聞き返された。
 頷く。
 とても驚いた顔をして、それから「嬉しいです」とほほ笑む。あ、ちょっと可愛い、と一瞬思った。
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