語彙力ゼロなアドレナリン女子は、ダウナーなイケボ男子をおとしたい
 翡翠はサロンの手伝いに来て、男性客への施術を行うこともある。これまでは長期休みを利用して、施術技術をあげるために研修に行っていたこともあるようだ。

 受付で女性のお客様の目が翡翠に向くのを見る。翡翠はキリっとした顔つきをしていて、どちらかと言えば強面だけれど、低く響く声が甘い。
 そのギャップにハマる人も多いようで、お客様から手紙や差し入れをもらっているのを 何度なく目撃する。その度に私はいつもソワソワとしてしまうのだ。

「ありがとうごさいます」
 と応える声は柔らかくて甘くて、その声を受けるお客様が羨ましいな、といつも思う。

 サロンでの翡翠は愛想がよく、丁寧な接客なので評判もいい。
 ただ私にその愛想を使ってはくれないのだ。

 藍と翡翠のご両親のご厚意で、木瀬家の食卓に招かれることもあるけれど、いつも、「お前なんでいんの、帰れよ」と言われる。

 そんな風に、現状、私は翡翠に好かれてはいない。
< 23 / 55 >

この作品をシェア

pagetop