シテくれないわたしの彼氏~モンスターバトル~

恋人っぽいことがしたい

 彼とのデートは大学図書館やカウンセリングルームが多い。付き合う前に私が行きたがった流れもあって、大学に行くことが多かった。

 彼の友達に会うことも多く、私と一緒にいるのを見つけて、
「岸井に人間的な欲求ってあるの?」
「人と付き合いたい欲ってある?」
「そもそも人間に興味あったっけ?」
 とひどい言い草でからかわれるのを目撃する。

 そこまでの濃いキャラクターになっているとは思いもしなかった。でも、確かに彼からは人間的な欲求が見えることは少ない。彼は何を言われても、

「いつも欲求をむき出しにするのが、最良とは思わないけどね」
 とサラリと流してしまう。

 その日も一緒に大学に行ったら、「恋人っぽいことしようって感覚あるの?」とたまたま居合わせた男友達に茶化されていた。

「恋人っぽいことの定義は?」
 と彼は聞いて、煙にまいている。
 相手はハイハイまたいつもの理詰めですね、と流してくるのだった。

 いつもなら気にならないやり取りだったけれど、その日は妙に気になってしまう。

 だから、カウンセリングルームに行って、箱庭や描画をやってみた後に、つい、「岸井さんは恋人っぽいことしたい気持ちある?」と聞いてしまった。
 彼は私の方を見て、「さっきの話?」と聞いてきくるので、私は頷く。


 彼が重視していない部分をつつくのは、心苦しい。
 でも、自分の気持ちに蓋をするのも苦しかった。

「あまり、今まで考えたことがなかったのが正直なところで。温度差があると言われたこともある」
 過去の恋愛のことを聞いたことがなかったから、少しドキッとしてしまう。

「私は、けっこう欲まみれなんだよ」
「したことは、ある?」
 勉強のわからないところがあるか、と聞くように彼は聞いてくる。私は少し考えてから、首を振った。

「でも、岸井さんには触れたいし、触れて欲しいし。もっと」
 別の人じゃないんだよ、と思う。彼は手を差し出してきて、私の小指に自分の小指を絡めた。私は彼の目を見る。
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