公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

それぞれの個性

「エルーズ、あそこを見てみろ」
「あれは……鳥?」

 そこで、アルーグお兄様は裏庭にある気を指差した。
 そこには、一羽の鳥がいる。彼は、それを示しているようだ。

「俺達に人間には、あの鳥のような翼はない。どれだけ空を飛びたいと思っても、羽ばたくことは叶わないのだ」
「う、うん……」
「お前は、そんな鳥になりたいと思ったことはないか?」
「それは……あるよ」
「俺もだ。しかし、どれだけ焦がれても、俺達は鳥にはなれない。そういうものなのだ」

 アルーグお兄様は、優しい顔をしていた。
 鳥になりたい。そう思ったことは、私もある。
 正確には、空を飛んでみたいという夢物語を思い描いたことがあるということだろうか。

「しかし、もしかしたらあの鳥は俺達を見て、剣を振るってみたいと思っているのかもしれない」
「え?」
「それはきっと、人間も同じだ。俺達は多かれ少なかれ、他人に憧れるものだ。お前が俺や他の者達に憧れるような気持ちが、俺にもある」

 アルーグお兄様は、ゆっくりとそんなことを呟いた。
 鳥に憧れるように、他者に憧れる。それは、なんとなく理解できる。

「アルーグお兄様にも、誰かに憧れたりするの?」
「ああ、例えば、お前にだって俺は憧れている」
「……僕に?」
「俺は、お前のように感受性が豊かではない。お前のように様々な理を見抜く目を、俺は持っていないのだ」
「ぼ、僕にそんな力があるのかな?」
「ある。俺やウルスドやルネリアは、お前のその豊かな感性を感じ取っている」

 アルーグお兄様の言葉に、エルーズお兄様は周りを見渡した。
 そんな彼に対して、私とウルスドお兄様は頷いた。アルーグお兄様の言う通りだと示すためだ。

「俺達には、それぞれ個性というものがある。俺やお前は違う……その個性というものが、お前は人よりも少し大きいというだけだ」
「個性……」
「お前には、俺にできないことができる。俺がお前にできないことができるように、お前にも何かを成し遂げる力があるのだ」
「僕にしかできないこと……」

 エルーズお兄様の肩に、アルーグお兄様はそっと手を置いた。
 アルーグお兄様は少し腰を落として目を合わせている。しっかりとその目を見て、話したかったのだろう。

「お前は、誇り高きラーデイン公爵家の男子だ。それを忘れるな」
「うん……忘れないよ、アルーグお兄様」

 アルーグお兄様の言葉に、エルーズお兄様はゆっくりと頷いた。
 その目には、確かな決意が映っている。きっと、彼の中の自分を卑下する感情は、消え去っただろう。
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