公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

何気ない言葉でも

 私は、エルーズお兄様と一緒にアルーグお兄様とウルスドお兄様の剣の稽古を見学していた。
 私達が見ているからか、ウルスドお兄様はかなりやる気を出していた。アルーグお兄様が嬉しそうな笑みを浮かべているため、恐らくいつもよりも稽古に積極的なのだろう。
 そんな風な二人に時々声援を送りながら、私達は稽古を見ていた。二人の華麗な剣技を見て、歓声をあげたりしながら、私達はこの時間を楽しんでいる。

「すごいな、お兄様達は……」
「そうですね……」
「僕も……あんな風になりたかったな」
「え?」

 そこで、エルーズお兄様が私にそんなことを呟いてきた。
 それは、とても悲痛な言葉である。あんな風になりたかった。その過去形の言葉は、自分がそうはなれないということを表しているからだ。

「エルーズお兄様、それは……」
「あ、ごめんね。別に気にしないで」
「そんな……」

 エルーズお兄様に、私は何も言えなくなってしまった。
 気にしないなんてことはできない。その言葉を放ったエルーズお兄様の心情を考えないなんて、できる訳がない。
 ただ、その言葉に対して何を言えばいいかが、私にはわからなかった。言葉が、まったく見つからないのだ。

「……エルーズ、少しいいか?」
「ア、アルーグお兄様? どうかしたの?」

 そこで、アルーグお兄様がゆっくりとこちらに歩いて来た。
 その後方には、膝をついたウルスドお兄様がいる。どうやら、少し目を離した隙に、決着がついていたようだ。
 ただ、こちらに来たのはそれが理由だからではないだろう。きっと、エルーズお兄様のあの言葉があったからだ。

「エルーズよ、お前のその体のことは、当然俺もわかっている。そんなお前に対して、俺は安易に希望的な観測を言おうとは思わない。だが、お前が自らを卑下しているというなら、それは止めなければならないことだ」
「卑下……?」

 アルーグお兄様は、少し厳しい表情をしていた。それは、ウルスドお兄様を指導していた時と同じような表情だ。
 エルーズお兄様が、自分を卑下している。それは、確かにそうかもしれない。先程の言葉には、そんな感情が宿っていたような気がする。
 そのことが気になって、アルーグお兄様はこちらに来たようだ。その言葉が単純な憧れであったならば、彼も特に気にしなかったのだろう。
 アルーグお兄様は、誇り高き人だ。だからこそ、そういった感情を見逃すことはできないのかもしれない。
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