公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

出会った日から(アルーグ視点)

「いえい」
「あ、カーティアさん、こんにちは」
「こんにちは、ルネリアちゃん。こんな所で、一体何をやっているの?」
「花壇の整備を手伝っているんです」
「ほう?」

 屋敷に到着したというのに、一向に屋敷の中に入ってこない婚約者を探しに来た俺は、庭の花壇の前で妹と戯れているカーティアを見つけた。
 どうやら、彼女はルネリアを見つけて話していたため、屋敷の中に入ってこなかったようだ。
 そういう自由な所は、カーティアらしいといえる。こちらとしては、困った所ではあるのだが。

「ルネリアちゃんは、花が好きなの?」
「ええ、花は好きです。でも、花壇の整備を手伝っているのは、どちらかというとこうやって土に触れているのが好きだからですね……」
「そうなの?」
「えっと……カーティアさんも知っている通り、私は農民でしたから」
「懐かしさがあるとか、そういうこと?」
「そうですね。そんな所です」

 カーティアとルネリアは、花壇の前で談笑していた。
 そんな様子に、俺は思わず口角を上げてしまう。二人の様子を、微笑ましいと思ってしまったのだ。
 思い出すのは、ルネリアと初めて出会った日のことである。あの時から比べて、ルネリアは随分と明るくなった。
 俺やカーティアに対する態度も、随分と変わったものだ。



◇◇◇



「ふぅ……」
「アルーグ様、緊張されているのですか?」
「……ああ、そうだな」

 ルネリアと会ったあの日、俺はカーティアとともに彼女の住んでいた村に馬車で向かっていた。
 その道中、俺は柄にもなく緊張していた。それは、かつて愛した女性の娘とどう接していいのか、また母を失った子供にどのように声をかければいいのか、俺にはわからなかったのだ。

「大丈夫ですよ、アルーグ様」
「カーティア……」
「あなたは、優しい人です。ルネリアちゃんにも、きっとそれが伝わりますよ」
「俺が優しい……か」

 そんな俺の手に、隣にいるカーティアはそっと自らの手を重ねた。
 その表情は、いつも通りの無表情である。だが、俺を安心させるように笑っているように、俺には感じられた。

「ふっ……お前について来てもらって良かった。俺一人では、この困難に立ち向かえなかったかもしれない」
「おや、いつになく弱気ですね? 私の知っているアルーグ様は、いつも堂々としているはずですが」
「弱気……そうだな」

 カーティアは、ゆっくりと笑みを浮かべていた。実際に表情は変わっていないが、俺にはそう見えたのである。
 こうして、俺は婚約者に支えられながら、ルネリアの元に向かったのだ。
< 108 / 135 >

この作品をシェア

pagetop