公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

思ってくれる人

「あなたの存在を知って、私は確信しました。あなたがお嬢様の……セリネア様の子供なのだと」
「セリネア?」
「ええ、それがあなたのお母様のかつての名前です」

 ゼペックさんの口から出た名前に、私は首を傾げることになった。
 しかし、思い返してみれば、お母さんは名前を変えていると彼は言っていた。私が知っている名前は、偽名だったということなのだろう。
 ラネリアという名前が、私の知っているお母さんの名前だ。だが、その名前の人物をゼペックさんは知らないのである。

「お嬢様が亡くなったと知り、私はひどく落ち込みました。ですが、あなたのことを聞き、安堵しました。お嬢様は、あれから幸せを掴めたのだと……」
「幸せ……そうですね。そうだといいと思っています」
「そうですとも、ダルギスが聞いたあなたとお嬢様との思い出が、それを物語っています」

 ゼペックさんは、笑顔を浮かべていた。
 結果的にお母さんは早くになくなってしまった。たくさん苦労もしたのだろう。
 だけど、お母さんは辛い過去を乗り越え、幸せだったはずだ。そう思って、彼は笑みを浮かべてくれているのだろう。

「そして、あなたが健やかに育っていると聞いて安心しました。お嬢様の大切なものが守られているということが、私は嬉しかったのです」
「ゼペックさん……ありがとうございます」
「いえ、お礼を言われるようなことではありません」

 ゼペックさんに対して、私はお礼を言った。
 それに対して、彼は首を振る。しかし、そんなことをする必要はない。私は、彼にお礼を言うべきなのだ。

「否定しないでください。私は、あなたにお礼が言いたいのです。母のこと……それに、私のことを思ってくれて、本当にありがとうございます。私達も母も、本当に嬉しいのです。あなたのその心意気が……」
「……私は、あなた達に対して何もできませんでした。非力な私に、感謝する必要はありません」
「そんなことはありません。あなたのその思いだけで、充分すぎるくらいです」
「ルネリア様……」

 私は、本当に嬉しかった。
 お母さんや私のことを思ってくれている人がいたという事実が、嬉しくてたまらないのである。
 だからこそ、お礼を言いたかった。この気持ちを伝えたかったのだ。

「あなたから、そのような言葉をかけてもらえるなんて……私は、なんと幸せ者なのでしょうか……」
「それは、こちらが言いたいことです……ふふ」
「ははっ……」

 私とゼペックさんは、お互いに笑みを浮かべていた。
 こうして、私はお母さんの使用人であるゼペックさんと話したのだった。
< 107 / 135 >

この作品をシェア

pagetop