公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

わかりやすい表情(アルーグ視点)

 俺は、かつてルネリアと出会った時のことを思い出していた。
 思えば、あの時からお互いに随分と変わったものだ。特に、ルネリアは明るくなったといえるだろう。

「……あ、アルーグお兄様!」
「おや……」

 そこで、俺の存在にルネリアが気づいた。
 彼女は、俺に笑顔を向けてくれている。あの出会い方から、こうなるとは思ってもいなかったことだ。
 俺は、ゆっくりとルネリアとカーティアのいる花壇の前まで歩いていく。そんな俺に対して、カーティアは楽しそうな笑みを浮かべているような気がする。

「アルーグ様、どうもこんにちは」
「こんにちはではない。お前は、何をやっているんだ?」
「屋敷に来たから、ルネリアちゃんの姿が見えたものですから、つい話しかけてしまったのです。アルーグ様こそ、どうされたのですか?」
「お前が遅いから、様子を見に来たんだ」
「そうですか……」

 カーティアは、俺の言葉に嬉しそうにしている。顔は相変わらず無表情だが、俺にはそれがわかった。
 表情が見えるようになったからわかったことだが、カーティアは意外とわかりやすい反応をする。

「カーティアさん、嬉しそうですね?」
「うん、アルーグ様が、私のことを思ってくれているのは、素直に嬉しいよ」
「む……」

 そんなカーティアの反応をルネリアはしっかりと見抜いていた。それに、俺は少し驚いてしまう。

「アルーグお兄様? どうかされましたか?」
「いや……ルネリア、お前はカーティアの表情が読めるのか?」
「表情が読める?」
「カーティアの感情がわかるのかと聞いているのだ。あまり言いたくはないが、彼女には表情がないだろう?」
「ああ……」

 俺の言葉に対して、ルネリアは納得したように頷いた。恐らく、質問の意図が読めたのだろう。
 その意図が読めなかったということは、ルネリアにとってカーティアの感情が読めるのは、当たり前のことなのかもしれない。

「わかりますよ。カーティアさんは、確かに無表情ですけど……なんというか、わかりやすいというか」
「わかりやすいか……確かに、そうかもしれないな」
「え? 私って、そんなにわかりやすいんですか?」

 ルネリアにとっても、カーティアはわかりやすいようだ。
 不思議なものである。表情はまったくないというのに、どうして俺達にとって、彼女の感情はこんなにもわかりやすいのだろうか。

「ちなみに、今は喜んでいますよね?」
「ああ、そのようだな……」
「うっ……二人の前では、隠し事ができなさそうですね」

 俺達は、笑い合っていた。カーティアは表面上無表情だったが、その笑みも俺達にはわかるのだった。
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