公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

珍しい頼み(エルーズ視点)

「エルーズ、お前に少し頼みたいことがあるのだ」
「頼みたいこと……? 僕に?」
「ああ、これはお前にしか頼めないことだと思っている。色々と考えた結果、そう思ったのだ」

 僕は、アルーグお兄様に呼び出されていた。
 こんな風に呼び出されて、正直驚いている。体の弱い僕に、お兄様が何かを言ってくることは少ない。言ってくるにしても、彼が部屋に訪ねて来るため、今日は本当に珍しいのだ。
 ただ、最近、僕はリハビリを頑張って、少し体質も変化している。そういう面も考慮して、お兄様はこのような形を取ったのかもしれない。

「アルーグお兄様、それでどんな内容なの?」
「お前に、俺と一緒に別荘に来てもらいたいのだ」
「別荘……?」

 アルーグお兄様の言葉に、僕はとあることを思い出していた。
 ラーデイン公爵家は、現在お兄様が取り仕切っている。当主であるお父様が、色々な失敗の責任で退いたからだ。
 そんなお父様は、今公爵家の別荘にいると聞いている。お兄様が言っているのは、恐らくその別荘のことだろう。

「お父様の所に行くということ?」
「ああ、そういうことだ」
「どうして?」
「父上の様子を見に行くのだ」

 アルーグお兄様は、淡々とそう言ってきた。その言葉は、とても事務的なように思える。
 前々から思っていたことではあるが、お兄様はお父様に少し冷たい。やはり、お父様の過ちが、そうさせているのだろうか。
 もちろん、お父様が許されないことをしたということは僕もわかっている。ただ、お兄様ももう少し手心を加えてあげてもいいのではないか。そう思わないこともない。
 僕達にとっては、たった一人のお父様である。少しくらい優しくしてもいい。お兄様のこういう態度を見ていると、僕はそんなことを思ってしまうのだ。

「もしかして……」
「どうかしたのか?」
「ううん、なんでもないよ」

 そこまで考えて、僕はとあることに気づいた。
 もしかしたら、お兄様はそういう僕の考えを見抜いているから、同行者に選んだのかもしれない。
 お兄様は、きっとお父様に厳しく接するだろう。そのため、バランスを取るためにお父様に優しくできる僕を求めているのかもしれない。

「エルーズ、体の方は大丈夫か?」
「うん、大丈夫。別荘って、そんなに遠くにある訳ではないんだよね?」
「ああ、公爵家の領地内にある。それ程、遠くはない」
「それなら、大丈夫だと思う」

 アルーグお兄様は、僕の体のことを心配してくれた。
 あまり長い旅なら、体調を崩してしまう可能性が高い。だが、それ程遠くないなら、問題はないだろう。
 お母様は、僕を止めるかもしれない。だけど、僕は行きたいと思う。
 お兄様の役に立ちたい。公爵家に貢献したい。そういった気持ちが、僕の中にもあるのだ。
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