公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

価値観の違い(イルフェア視点)

「キルクス様は、お兄様に対して憧れとか、そういう感情を持っていますか?」
「憧れ……尊敬はしているが、それは憧れというべきものかは、怪しい所だな……」
「そうですか……でも、そういう対象というのは、なんというか近寄りがたいものではありませんか?」
「む……?」

 キルクス様は、私の言葉に対して少し不思議そうな顔をする。私は、そんなに変なことを言っただろうか。

「……確か、俺は以前、兄上のことをお前に話したはずだ。その内容を覚えているか? 兄上が、どんな人間だったかということだ」
「え? 確か、人を惹きつける……あ」
「そうだ。兄上は、近寄りがたい対象ではない。むしろ、その正反対なのだ」

 キルクス様の言葉で、私は気づいた。確かに、ガルディアス様の性質は、私の考えていた特別とは正反対のものである。
 そんな簡単なことに気付かなかったとは、私の視野も狭くなっていたようだ。なんというか、それが恥ずかしい。

「だが、お前が何を言いたいかは理解できてきた。つまり、お前は憧れを抱かれる近寄りがたい存在という訳か」
「えっと……」
「謙遜する必要はない。お前が優れた人間であるということは、俺も知っている。俺から見ても、そうだ」
「そう、ですか……」

 私は、少し落ち込んでいた。やはり、私はそういう存在なのかと。
 キルクス様から見てもそうなのだ。ということは、ルネリアから見てもそうなのだろう。

「ただ、そうだな……俺はお前が優れているからといって、近寄りがたい存在だとは思わない」
「え?」
「……俺はむしろ、近づきたいと思う。そうだな……これは、そうなりたいという対象ではなく、婚約者として見ているからだろうか」

 キルクス様は、言いながら少し目をそらした。その言葉が、少し恥ずかしかったのだろう。
 彼の言わんとしていることは理解できた。確かに、恋愛対象や婚約者としてみるならば、特別な存在というのは異なる意味を持つのかもしれない。
 そう考えて、少し恥ずかしくなってきた。目の前にいる彼のことを、かなり意識してしまったからだ。

「そして、俺は家族も同じだと思っている」
「え? どういうことですか?」
「他人と一つ屋根の下で暮らしている者とで、価値観が一致するはずはないということだ」

 キルクス様の言葉が、理解できない訳ではない。確かに、家族と他人では違うだろう。
 しかし、それを完全に受け入れることはできない。私の中にある長年の疑念が、それを許さないのだ。

「……ふむ。まあ、手っ取り早いのは本人に聞いてみることだな」
「本人に聞く、ですか?」
「ああ、それが早いということは、お前もわかっているだろう? 年齢などを言い訳にしてはならないぞ。腹を割って話すということに、大人も子供もない。お前は、自分の考えを妹に真っ直ぐ話すべきだ」
「それは……」

 キルクス様の指摘は、最もである。私のこの悩みを解決するには、ルネリアと話すことが一番なのだろう。
 ただ、怖かった。それで彼女から、明確に拒絶されたなら、私はどうすればいいのだろうか。
 しかし、それでは駄目なこともわかっている。結局の所、それを確かめなければ、前に進むことはできないのだから。
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