公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
第三章 ウルスド編

自由に生きたい(ウルスド視点)

 公爵家の貴族として生を受けたことが不幸だったといえば、きっと誰もが怒るだろう。
 平民と比べれば恵まれているのだし、その生活や地位に憧れを持つ者からすれば、俺の言っていることは腹立たしいはずだ。
 でも、俺はそれでもそう思っている。もっと自由に生きたかったと。

「時々、俺は自分が籠の中の鳥なんじゃないかと思うんだよ」
「気でも狂ったのかしら?」

 婚約者であるクレーナは、俺の発言に怪訝そうな顔をしていた。
 いや、これは明らかに引いている。俺が何を言っているのかさっぱりわからないというような顔だ。

「貴族というものには、自由がないだろう。こうやって、決められた婚約者と婚約して、決められた道を歩んで行くだけだ。それはつまり、籠の中にいる鳥と同じなんじゃないかと俺は思う訳だ」
「ふーん」

 俺が説明すると、クレーナは興味なさそうな返事をした。なんというか、滅茶苦茶冷たい。

「まあ、お前には理解できないのかもしれないが、俺はそう思っている訳だ」
「そう……それで?」
「それで?」
「その悩みを抱えているあなたは、一体何をしようというのかしら?」
「いや、それは……」

 クレーナは、俺を睨んできていた。どちらかというと少しきつい顔つきをしている彼女に睨まれるのは、結構怖い。
 しかし、どうして俺はこんな視線を向けられなければならないのだろうか。あまり、よくわからないのだが。

「私からすれば、あなたの言っていることは贅沢な悩みとしか思えないわ」
「それは、わかっているさ。でも……」
「わかっていないから、そんなことが言えるのよ? あなたのそのねじ曲がった性根を私が叩き直してあげましょうか?」
「いや、それは……」

 クレーナは、滅茶苦茶怖かった。一体、俺が何をしたというのだろうか。

「……そういえば、あなたには新しい妹ができたそうね?」
「え? ああ、ルネリアのことか?」
「ええ、確か、その子は平民として暮らしていたと記憶しているのだけれど?」
「そうだが、それがどうしたというんだ?」
「それなら、彼女に聞いてみなさいな。平民の生活というのが、どのようなものなのかということを……」

 クレーナの言葉に、俺は少し考える。俺は、貴族に生まれたくなかった。ということは、平民に生まれたかったということになる。
 そんな平民が、どのようなものなのか、クレーナは俺に学ぶべきだと言っているのだろう。
 彼女は、俺の言葉に厳しい態度をしている。つまり、俺はルネリアから何かを学ばなければならないということだろう。

「……わかった。そうしてみるよ」
「ええ、そうしてみなさいな」
「ああ……」

 それによって、俺の認識は変わるのだろうか。俺は、そんな疑問を抱きつつ、クレーナの言葉にゆっくりと頷くのだった。
< 20 / 135 >

この作品をシェア

pagetop