公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

今のは一体?

 私は、しばらくの間キルクス様と話した。
 話してみてわかったのは、彼がいい人であるということである。
 イルフェアお姉様との相性も多分いいのだろう。二人のやり取りから、なんとなくそれは理解できた。
 何はともあれ、無事に王子との会合が終わって一安心である。

「む……?」
「キルクス様、どうかされたのですか?」
「二人とも、すまない。少しだけ待ってくれ」

 話も終わったので、私達は帰ることになった。
 馬車まで送っていくと言ってくれたキルクス様は、王城内の廊下で声をあげた。よくわからないが、何かに気づいたようだ。

「サガード、隠れていないで出てこい」
「……兄上、ばれていたのか」

 キルクス様の呼びかけに、物陰から私と同い年くらいの男の子が出てきた。
 態度からして、彼は王族の一人だろう。そうでなければ、キルクス様にこんな口の利き方ができる訳がない。

「そんな所に隠れて、何をしていた?」
「別に、なんでもいいだろう?」
「お前は、客人に無礼を働いたということを理解していないのか?」
「それは……」

 キルクス様の言葉に、サガードと呼ばれた少年は怯んだ。流石に、私達を隠れて見ていたことが悪いことであるということは、理解しているらしい。

「キルクス様、私もルネリアも気にしていませんよ」
「その気遣いはありがたい。しかし……」
「サガード様も、別に悪気があった訳ではないと思います。恐らく、彼はただ……」
「ただ?」

 イルフェアお姉様は、キルクス様を諫めていた。
 彼女は、なんだか楽しそうな笑みを浮かべている。口振りからして、お姉様は彼がどうして私達の様子を窺っていたか、わかっているのだろうか。

「サガード様、私の口から言っても構いませんか?」
「え? いや、その……」

 イルフェアお姉様に呼びかけられて、サガード様は焦っていた。何故かわからないが、彼は顔を赤くしている。もしかして、お姉様が美人で見惚れてしまったのだろうか。
 気持ちはわかるが、それはいけない。なぜなら、お姉様は彼にとって兄の婚約者だからだ。

「その……お前」
「え? 私、ですか?」
「ああ、お前だ」

 私がそんなことを考えていると、サガード様は私に話しかけてきた。
 これは、どういうことだろうか。私は、彼に何もしていないと思うのだが。

「……俺の名前は、サガードという。お前の名前を教えてくれないか?」
「えっと……ルネリアです」
「そうか……その、良かったら、これからよろしく頼む」
「え? あ、はい。よろしくお願いします」

 挨拶をされたので、私は挨拶を返した。すると、彼は満足したように頷き、そのまま踵を返した。
 その様子に、私は困惑する。これは、一体なんだったのだろうか。
 わかったことは、イルフェアお姉様が笑っていて、キルクス様がやれやれというような表情をしていたことだ。なんというか、二人は私が知らないようなことを知っているような気がする。
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