公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

自分が情けない(ウルスド視点)

「毎日、早起きして、一日中作業して……大変でした。今の生活にも苦労はありますけど、あの頃に比べると随分と豊というか、なんというか……」
「それは、そうでしょう。やはり、貴族ですからね」
「ええ、でも、私、こうやって土が恋しくなる程には、あの時に愛着があったのかなと、今になってそう思うんです」
「そうですか……それは、いいことだと思います。ルネリアお嬢様は貴族ではありますが、その時のことを忘れないでいてくれるというのは、平民の私からすると、嬉しいことです」
「そうなんですか?」
「ええ、そういうものなのです」

 ルネリアの昔を懐かしむようなその言葉に、俺は拳を握っていた。そこには、彼女の平民としての苦労が滲み出ていたからだ。
 ダルギスさんの言葉もそうである。平民としての思いが溢れている。
 俺は、そんな身分になりたかったと言った。だが、それを本当に理解していたのだろうか。
 そう自分に言い聞かせた時、答えはすぐに出た。それによって、俺は震える。自分が情けないと。

「……どうやら、わかったようね」
「え?」

 そんな俺に、誰かが呼びかけてきた。ゆっくりと振り返ると、そこにはクレーナがいる。
 どうして、彼女がここにいるのだろうか。その疑問はあった。
 だが、今はそんなことはどうでもいい。俺はもっと大事なことを彼女に言わなければならない。

「クレーナ、俺は自分が情けない。平民になれば、自由が手に入るなんて、そんな訳がないのに……」
「そう……そうね。まあ、今までのあなたはとても見っともなかったというか、貴族の傲慢というか、そんな感じだったわね。でも、今はいい顔になっているわ。少なくとも、高慢な貴族は卒業といった所かしら?」
「……ああ、そうなりたいと思っている」

 俺の言葉に、クレーナは笑ってくれていた。
 その笑顔を見て、俺は思う。彼女は、なんと優しいのだろうかと。

「ありがとう、クレーナ……俺は、お前のおかげで大事なことを理解できた」
「お礼なら、私ではなく……いえ、まあ、それはいいかしら? そんなことより、この程度で理解したなどとは思わないで欲しいものね。今から、あなたにもっと教えてあげるから、支度をしなさい」
「支度?」
「出かける支度よ」
「……わかった」

 俺はクレーナの言葉に、ゆっくりと頷いた。
 彼女が、何を考えているかはわからない。だが、俺はそれでいいと思った。
 今なら、確信できる。彼女は、俺に何か重要なことを教えてくれようとしているのだ。それなら、俺はそれに従うだけである。
 こうして、俺は身支度のために屋敷の中に向かうのだった。
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