公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

改心の裏側

 屋敷の方に向かうウルスドお兄様を、私はダルギスさんと一緒に見つめていた。
 彼が屋敷の中に入ってから、クレーナさんがこちらを向いた。彼女は、笑みを浮かべている。それは、嬉しそうな笑みだ。

「二人とも、今回はありがとうございました」
「い、いえ……」
「ええ、お役に立てたなら何よりです」

 こちらに来たクレーナさんは、私達二人にゆっくりと頭を下げてきた。
 実の所、私達は彼女からあることを頼まれていた。それは、つい昨日頼まれたことである。



◇◇◇



 私は、昨日もダルギスさんと土いじりをしていた。

「ええ、でも、私思うんです。こうやって土が恋しくなる程には、あの時の愛着があったのかなあって」
「なるほど……それは、いいことだと思います。平民の私からすると、貴族のルネリアお嬢様がその時のことを忘れないでいてくれるというのは、嬉しいことです」
「そういうものなのですか?」
「ええ、そういうものなのです」

 その時、私達はそんな会話を交わしていた。今日と同じようなことを言っていたのである。

「……お二人とも、少しよろしいでしょうか?」
「え?」
「おや……」

 そこに偶々通りかかったのが、クレーナさんだった。彼女は、廊下の窓から身を乗り出して、私達に話しかけてきたのだ。
 私達は、驚いていた。まさか、そんな所から誰かに話しかけられるとは、まったく思っていなかったからである。

「こんな所から、申し訳ありません。少し、失礼しますね」
「え?」
「ああっ……」

 クレーナさんは、廊下の窓を飛び越えてこちら側に来た。
 それは、中々に華麗な跳躍である。貴族としては、大いに問題であるとは思うが。

「本来なら、こういうことはあまりよくありませんが、今は少し時間がないのでどうかお許しください。さて、まずは自己紹介から、私はクレーナ・トルキネスといいます」
「確か、ウルスドお兄様の婚約者さんですよね?」
「ええ、そうです」

 私の言葉に、クレーナさんはゆっくりと頷いた。その時の彼女は、少しだけ焦っているように思えた。今にして思えば、それはウルスドお兄様に見つからないかを気にしていたのだろう。

「不躾な頼みではありますが、私はお二人に先程の話をもう一度して欲しいのです」
「え? もう一度?」
「ええ、あの話はとても素晴らしい話でした。それを私は、ある人物に聞かせて欲しいのです」
「ある人物ですか……」

 私とダルギスさんは、クレーナさんの言葉に顔を見合わせた。それから、彼女とウルスドお兄様との間で何があったのかを聞かされたのである。



◇◇◇



「結果的に、上手くいきましたけど……結構、緊張しました」
「ええ、自然な感じにできるか、中々不安でしたね……」
「まあ、大丈夫でしょう。彼も、ああして心を入れ替えた訳ですから」

 私達の言葉に、クレーナさんは笑っていた。なんというか、嬉しそうで満足そうな笑みである。
 もしかして、彼女はウルスドお兄様のことが結構好きなのではないだろうか。その笑顔を見て、私はそんな感想を抱くのだった。
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